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パリ国際柔道大会
石井健闘、カルタゴの怪物、生田を粉砕

恒例のフランス“ジュウドー”国際大会を取材した。ある雑誌で目にした“井上二世”と呼ばれる国士舘高校生の石井慧選手が目当てだった。かれは04年全日本、アジア、ジュニア世界選手権優勝者、講道館杯全日本体重別選手権優勝、韓国国際100kg級優勝など、井上、鈴木に負けない才能を持つ男らしい。

以前、「なぜ日本の柔道は強いのか」と題して書いたことがある。その一部を少し長いがここに掲載する。

・・多くの日本人選手,ファンを含めて究極な柔道の勝負美学は,スパッと胸がすくような「一本」で勝つことにある。不世出の名選手山下は,世界選手権大会でオープン,重量級の2階級で予選から決勝まで総ての試合で一本勝ち、史上初の2階級制覇した。これはまだ破られていない快挙だ。また,シドニー五輪で井上選手も予選から決勝まで総ての試合で一本勝ちしている。この勝ち方こそ「日本」の勝負美学の追求の表れだと思う。

柔道の国際化で一本勝ちすることは至難のことだが,日本の柔道と外国のジュウドーが、根本的に違う。日本は伝統的な「一本」へ美学の飽くなき探求に他ならないからだ。外国人の発案で始められたレスリングのようにポイント勝負は,日本柔道へのノスタルジアムとはほど遠い。単に勝てばよいのではなく,その勝ち方が問題なのだ。・・・

勝敗の決着をつけるため、「指導、効果」など、採点のためのルールが設定されてから久しい。そうでもなければ、白黒が明確につけられない。これにも一理がある。

しかし、日本で発祥した柔道がこれほど国際化されて、伝統継承を維持して“日本には日本のやり方がある”ことを貫くことは難しい。日本柔道の究極の技で「一本勝ち」で勝敗決着こだわりを持ち続ける。

大会はベルシー室内特設会場で行われた。世界的なレヴェルの大会のため、そう簡単に勝敗が一本で決まるものではない。日本選手の対戦相手は誰もが、“ヤッテやろう”と意気込み、ボルテージを高めて挑戦してくる。それらをかわして、小野、石井らの内股、体落しが「スパッ!」と決まった瞬間、日本選手の研ぎ澄まされた技の切れ味に、観衆は日本柔道の醍醐味に改めて酔うのがわかる。

石井は準決勝で試合巧者の相手に、不完全燃焼のポイントで敗れ決勝進出を阻まれた。しかし、3位決定戦はファン・デル・ギースト、アテネ五輪5位の男だ。金メダルに最も近い選手と言われていた井上を破った男を、“アッ!”と言う間もなく、石井は一閃した左内股で宙に舞い上げてから畳に叩きつけた。石井は不本意な3位。ニコリともせず椅子に座り、他の選手の試合を見ていた。

「石井は間違いなく、次代の世界柔道界を背負う逸材である」と、イタリア人のカメラマン、柔道7段のジョルジが細かく説明してくれた。

女子+78kg級の五輪優勝者の塚田真希は、決勝で地元のホープを押さえ込んで一本勝ちを決めた。日本選手は男女14階級、4階級に優勝した。

と言っても、男子+100kg級の決勝戦で生田秀和が一本負けを喫した。「カルタゴの怪物」チュニジア人のアニス・チェドゥリは、巨体、怪力だけのウドの大木ではない。動きも柔らかくシャープだ。チェドゥリの大外刈りは見事な一本勝ちだった。今年カイロで開催される世界選手権大会、チェドゥリは日本選手の前に大きく立ちはだかる。

+100kg級で勝たないと、幾ら他のクラスで優勝しても、なんとなく満足度が違うように感じるのはぼくだけだろうか。

(望月次朗)

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