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第33回世界クロスカントリー選手権大会
ベケレ、ダブルタイトル4連勝、ディババ、史上2人目のダブル優勝達成

圧巻、男女エチオピア勢の活躍、日本女子ジュニア団体3位!

第33回世界クロスカントリー選手権が3月19、20日、フランスの中央部に位置するサンティティエーヌ市郊外20kmにある小さな村サンガルミエルの競馬場特設コースで開催された。本来は車のレースで名高いル・マン市開催予定が、市長が変わったために大会を返上。ガス入り飲料水で世界的に有名な飲み水を産出するサンガルミエル村と、かつては炭鉱の町、70年代はサッカーの町で世界に名を轟かせたサンティティエーヌ市の共同開催に到った。

大会の焦点は婚約者を練習中に心臓麻痺で亡くした、傷心のケネニサ・ベケレ(エチオピア、22歳)のダブル4連勝なるかが注目の的。一方、ライバルのケニア勢の巻き返しを始め、元ケニア国籍選手を集めたカタール、バハリン、エチオピアから93年独立したエリトリア、ウガンダらの諸国の台頭が「打倒ベケレ」を公言。総力を上げてベケレ潰しに躍起になってくることが予想された。しかし、ベケレは最愛の婚約者を失う悲劇を乗り越え、想像以上の強靭な精神力、稀有な素質でぶっちぎりのダブル4連勝達成。世界をあっと言わせた。そこには一回りも二回りも大きく成長したベケレが居た。一方、女子も99年オーサリヴァン以来2人目のダブル優勝をティルネシュ・ディババ(エチオピア、19歳)が果たした。日本男子ジュニアの活躍が期待されたが、予想外の早いペースに付いて行けず惨敗。エチオピアが男女合わせて。12タイトルのうち10タイトルを獲得した。日本女子ジュニア団体3位、女子ロングレース団体4位に入賞。各種目別に大会を振り返ってみる。

女子ジュニア

スタート、14:30、気温26度、湿度46%、無風
距離6152m、3周(5868m)+スタート直線284m、参加36カ国、参加選手117名

脇田茜(須磨学園高等学校)、アフリカ勢以外のトップの健闘

雲ひとつ見えない青空。クロカンには暑いぐらいの気温。サンガルミエルは約5500人の小さな村。今年最高気温を記録した好天気に恵まれ、近郊からピクニックを兼ねた観客1.8万人が訪れた。スタート地点はサンガルミエルをバックにしてTV映りが良い。直線約300m馬場コース上を走る。最初のコーナーを曲がってから、コースは硬い凸凹の荒れた芝生のフラットだが、2箇所の高い丘、3個の小さな土盛、3本の丸太、1箇所に泥濘の障害が作られている。種目によって、周回数が違う。

スタートからライバル同士の先頭集団争いは、緑のユニフォームのエチオピア、黒衣のケニア選手。その直ぐ後方に、日本選手がややばらつきが見えるが追走する形で前半を回る。小柄のゲレテ・ブリカ・バティ(エチオピア、19歳)と裸足のヴェロニカ・ワンジル(ケニア、16歳)の争いになったが、バティが27秒の史上最大の大差で圧勝。バティは「勝てると思ったが、ケニア選手を振り切るのが大変だった。コースを見るときつそうだったので心配したが、ケニア選手に勝てて嬉しい。でも、団体で優勝を逃したのは残念です」と言う。

ケニア選手が6人、エチオピア選手が4人トップ10を独占。11位に脇田茜(須磨学園高等学校)、13位、新谷仁美(興譲館高等学校)、15位、中村友梨香(天満屋)、17位小島一恵(立命館宇治高校)、24位、飯野摩耶(韮崎高校)、25位、鈴木悠里(常盤高校)だった。団体優勝は16ポイントのケニア、2位は22ポイントのエチオピア、昨年に続き日本は56ポイントで3位をキープした。

男子ショートレース

スタート、15:20、気温26度、湿度46%、無風状態
距離4196m、2周(3912m)+スタート直線284m、参加国46カ国、選手141名

ベケレ、喜びと悲しみの混同した優勝

スタートから1500m並みのスピードで先陣争い。大柄な身体つきのカタール選手が先頭に立ち早いペースで主導権をコントロール。負けじとばかりにケニア、エチオピア3カ国の10数人で先頭集団を構成。トップ集団全員が「打倒ベケレ」を目標に、個人、チーム作戦でプレッシャーを掛ける。1周目のラップを3000m障害世界記録保持者の元ケニア、現カタール国籍のサイフ・サイード・シャヒーン(22歳)が奪って通過。その後、シャヒーンが50mのリードを奪った時点で、勝負はついたかに見えた。しかし、ベケレはレース後「クロカンでは前もっての作戦は通じない。レースの流れに沿って、勝負勘が頼りだ。カタール勢の作戦は予想通り。早いペース展開は望むところ。シャヒーンが飛び出たが、あの時点では無謀なエネルギー消費だ。」と、冷静にレースを読んでいた。

シャヒーンは残り800m地点から徐々に力尽き後退。ベケレが先頭に立ち、そのまま2位のアブラハム・チェビイ(ケニア、25歳)、3位のキプロノ・ソンゴク(ケニア、20歳)の追い上げも5、6秒差をつけて11分33秒で優勝。続いてベケレは「アレムを失った時、目の前が真っ暗だった。悲しみ、不安から一日でも早く抜け出すために、アスリートして、伝統的な40日間の喪に服する習慣を破って練習を再開した。人はかなり批判的だったが、そうでもしなかったらレース参加はありえなかっただろう。やはり走り出してよかった!優勝は、喜びと悲しみが混同。今までの総ての優勝を一緒にしても、今日の優勝に勝るものではない。」と、複雑な表情だった。まず、この種目4連勝とエチオピアは23ポイント獲得して団体優勝。2位が31ポイントでケニア、カタールは32ポイントで3位だった。日本選手は上野祐一郎(中央大学)が66位、宇賀地強(作新学院高校)が88位、田子康宏(立命館大学)は105位だった。

女子ロングレース

スタート、16:00 気温27度、湿度46%、無風状態
距離8108m、4周(7824m)+スタート直線284m、参加39カ国、選手94名

スタートからクロカン得意のウェクネシュ・キダネ(エチオピア、23歳)が、同僚のディババ、昨年ジュニア優勝者のメセレチ・メルカム(エチオピア、19歳)、アリス・ティンビリリ(ケニア、24歳)、イサベラ・オチチ(ケニア、25歳)、昨年の覇者ベニタ・ジョンソン(オーストラリア、26歳)ら10数人を引っ張る。

3周目から、明らかにジョンソンが脱落。ティンビリ、オチチのケニア勢は、エチオピア勢のスプリントを警戒して、スピードアップで振り切る作戦。が、ディババ、キダネ、メルカムらがピッタリつく。残り400m、満を持したディババがスパート、一挙に差を広げて同僚を押さえて26分34秒で初優勝。ディババは「レース前から優勝する自信があったが、勝って大変に嬉しい。昨年のレースとは気象条件も違う。レース展開が早く、コースはタフで、暑くなったので気にしていたが、総て上手く走れた。」と、大喜びだった。2位ティンビリと3位キダネは、クロカンには珍しい写真判定で順位が決定した。30歳のベテラン、ゲテ・ワミが、ボストンマラソン練習の一貫で出場。エチオピア団体優勝に貢献。女子史上最高19個目のメダルを獲得した。日本選手は大越一恵(ダイハツ)が25位、28位、杉原加代(パナソニックモバイル)、31位、高山典子(三井住友海上)、39位、市川良子(テレビ朝日)、48位、山中美和子(ダイハツ)と振るわなかった。それでも122ポイントで団体4位。

男子ジュニア

スタート、14:25 気温27度、湿度35%、無風状態
距離8108m、4周(7824m)+スタート直線284m、参加39ヶ国、選手135名

ケニア勢上位独占

大会2日目、ベケレ見たさに2.8万人の観衆が集まった。スタートから6人のケニア選手がトップ集団の前列で主導権をコントロール。ラップごとにペースが尻上がり。エチオピア、ブルンディらが後塵を浴びてついてゆくのがやっとだ。ジュニア世界選手権優勝者、5000m12分57秒01の記録保持者、キプロノ・チョゲ(18歳)が、キュピュゴ(19歳)、キプラガット・コスゲ(19歳)を1秒差でかわして優勝。チョゲは「ファンタスティックなコース、天候、観客も素晴らしい。勝つために参加、勝つことだけを考えて走った。」勝つのは当然とばかりだ。今年、ポール・タガートをスペインのクロカンで破ったタリク・ベケレ(18歳、ケネニサの弟)は、ケニア勢の高速レースに潰された。日本選手もこの高速レースに遅れた。両角コーチは「この時期のピーキングをどこに合わせるか難しい」と言っていたが、最も期待された日本選手の成績は、32位、北村聡(日本体育大学)、47位、佐藤悠基(佐久長聖高等学校)、52位、小野裕幸(前橋育英学園高校)、54位、森賢大(鹿児島実業高校)、55位、佐藤秀和(仙台育英高等高校)、63位、河野晴友(佐野日本大学高校)と思わしくなかった。団体優勝は10ポイントのケニア、2位が37ポイントのエチオピア、3位が75ポイント獲得したカタールの順だった。日本は185ポイントで9位だった。

男子ロングレース

スタート、15:15、気温27度、湿度35%、無風状態
距離12020m、6周(11736m)+スタート直線284m、参加45カ国、選手154名

ベケレ圧勝、ダブル4連勝の偉業達成

ケニア勢はこれまでにない猛練習をケニア山の麓、エヌグでの長期合宿で準備してきた。ショートレースを捨てて、エリュード・キプチョゲを温存し、「本物」クロカン、ロングレースに総力を掛けた。カタール、エリトリア、ウガンダ、巻き返しを謀るモロッコ勢、もちろん同僚のエチオピア選手も、あわよくば虎視眈々世界中のトップランナーと共に、無敵「ベケレ打倒」を謀った。しかし、これらの思惑をはるかに超えた、知力、潜在能力、驚異的底知れないパワー、エネルギーでベケレは完璧に圧勝した。キプチョゲを始め、潰すはずの相手が潰れず、最終ラップで次々に自滅、脱落。ベケレの後塵を浴びる結果に終わった。3周目でトップを走ったゼルセナイ・タデセ(エリトリア、22歳)が、最後に盛り返して14秒差で2位、アブドラ・アハマド・ハサン(カタール、23歳)が3位。ベケレと激走したキプチョゲは5位に後退。日本選手は42位に高橋謙介(トヨタ自動車)、69位、高橋健一(富士通)、76位、高見沢勝(日清食品)、82位、松岡佑紀(順天堂大学)、100位、中村悠希(カネボウ)、113位、大森輝和(くろしお通信)。団体優勝は24ポイントのエチオピア、35ポイントのケニアが2位、3位には42ポイントのカタール。ちなみに、日本は269ポイントで14位だった。

女子ショートレース

スタート、16:15、気温27度、湿度35%、無風状態
距離4192m、2周(3912m)+スタート直線284m、参加29カ国、選手106名

T・ディババ、史上2人目のダブル優勝

前日のロングレースに続き、ほぼ同じようなレース展開だった。エチオピア、ケニア勢でトップ集団を形成。ホームストレッチでティエウネシ・ディババ、ウェルクネシ・キダネのスプリント争い。ディババが13分15秒でダブル優勝を達成。3位はイサベラ・オチチ。ディババは2冠の喜びをこう語る。「昨日より今日のほうがきつかった。特に、泥濘と丸太越えは大変だった。でも、夢にまで描いた、ケネニサのようなダブル優勝ができて最高です!!来年も連続優勝できるように、がんばりたいです。」

日本選手の成績は、36位、早狩美紀(京都光華AC)、43位、市川良子(テレビ朝日)、82位、高橋輝美(大分西高校)、95位、高田鮎実(諫早高校)だった。

団体優勝は18ポイントのエチオピアが優勝、2位が19ポイントのケニア、3位は67ポイントのアメリカ。日本は256ポイントで13位だった。

(月刊陸上競技社05年5月号掲載)

(望月次朗)

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