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タレスFBKゲームス
ベケレ、寒さと強風のなかで世界記録を阻まれる

本格的な欧州屋外シーズン開幕は、ドイツ国境に近いヘンゲロ市の「タレスFBKゲームス」から始まると言っても良いだろう。通称“ヘンゲロGP”。これまでの旧式なスタジアムから新装された。伝統的に男女の長距離種目がここの目玉だが、 今年はマリオン・ジョーンズ、11年ぶりにアレン・ジョンソンも招待された。また、地元に有力選手が控えている棒高跳、円盤投げにも世界的な選手が顔を揃えた。開会式に、「MR.ヘンゲロ」こと、ハイレ・ゲブレシラシエがアディスアベバから衛星中継で祝辞を述べた。順を追って大会にスポットを当ててみた。

マリオン・ジョーンズは一連の大リーグ野球選手を含む“バルコ事件”の黒い疑惑に絡む、ドーピングスキャンダルの渦中の人だが、米国陸連、IFFAからも正式な決着がされていないため大会出場は規則違反ではない。だが、この事件のため欧州のディレクター達がジョーンズ招聘ボイコットを訴えた。ジョーンズはこう語る。「欧州GPで出場ボイコットされたのは、わたしに罪もなく、全く心外で馬鹿げたこと!今は練習も順調に消化しているので、出場できるレースでカンを取り戻す」

しかし、レースはベテラン、チャンドラ・スターラップ(バハマ、33歳)にあっさり置かれて11秒29で2位。「スタートは良かった。これから猛練習してトライアルでベストを尽くす!」と言っていたが、3週間後に迫ったトライアルに身体の切れを取り戻すのは至難なことだろう。

五輪三段跳優勝者のフランソワ―ズ・ムバンゴ(カメルーン、29歳)は、太り過ぎて13m台で予選落ち。男子棒高跳ではベテランのティム・ロビンガ―(ドイツ、31歳)が5m83を記録して優勝。地元勢は期待外れだった。

女子5000mは、五輪2位の実力者のイサベラ・オチチ(ケニア、26歳)が、14分50秒96で独走優勝。2位は強烈なラストスパートを掛けたマリャム・ジャマル(ブルンディ)が、14分51秒68。100mHはスウェーデンの双子姉妹、妹のスサナ・カルー(24歳)が12秒65、姉のジェニーは12秒99で3位。姉は妹に一度も勝てず、連敗記録を更新中とか。彼女らの父親アナスはNHLのスーパースターで数度のスタンレーカップ優勝経験者。アレン・ジョンソン(米国、34歳)は、11年前、初めての欧州遠征にヘンゲロにきたとか。わずかな追い風を受けて、華麗なハードリングを見せて13秒18で圧勝。陸上界の“ジェントルマン”に「元気なようですね」と声を掛けると、笑顔で「ありがとう」と応えてきた。

男子5000m、残念ながらシレシ・シヒネ(エチオピア、22歳)はアキレスの故障で不出場。替わりに元気なジュニア世界選手権優勝者のオーガスティン・チョゲ(ケニア、)が13分12秒83で優勝。ケネニサの弟タリク・ベケレ(エチオピア、18歳)は13分14秒15で2位だった。この2人の争いは今後、注目に値する。

五輪2連勝を達成したヴィルギィユス・アレクナ(リトアニア、33歳)が、今季69m57を投げてシーズン4回目にして大台に迫る快投。2位はアレクサンダ・タメルト(エストニア、32歳)が66m68で2位。バルト3国の小国出身の大男達が今季は世界の上位を独占する。

男子3000m障害は、もちろん、ケニア勢の上位争い。アテネ2位の若干20歳のブリミン・キプルトが今季世界最高記録8分9秒53で、ゴール手前でポール・コエチを抜き去って優勝。男子3000mにアテネ2冠のイチャム・エルグルージュ(モロッコ、32歳)が出場予定だったが、レース数日前風邪を引いて出場辞退。パリ世界選手権5000m優勝者のエリュード・キプチョゲ(ケニア、20歳)が先頭に立ってレースを引っ張ったが、ホームストレッチで後方から追い上げてきたアイサック・ソンゴク(ケニア、21歳)に抜かれて不覚にも破れた番狂わせだ。優勝記録は7分30秒14。

大会最後の花形レースは男子10000m。日中は30度に気温が上昇したが、夕方になると風が出て肌寒く変わりやすい天候だ。

ケネニサ・ベケレ(エチオピア、22歳)はレース前、1km2分38秒ペース、前半を13分10秒設定。26分20秒の世界記録へ挑戦を歌い上げた。ペースメーカーが6周目で潰れ、ベケレは2400mから独走態勢。バックストレッチでかなり強い向かい風と寒さに懸命に戦いながら激走。同僚のアベベ・ディンケサ(21歳)が背後で追走。前半、13分12秒67で通過。後半ややペースダウンしたものの、ベケレの記録は史上4位の26分28秒72。2位のディンケサは自己記録(27分23秒60)を大幅に更新した史上5番目の26分30秒74だった。ベケレは「ペースメーカーが予想外に早く潰れたし、風が強く寒かった。世界記録への挑戦は、また次の機会がある。」と、笑って結んだ。

(05年7月号、月刊陸上競技誌掲載)

(望月次朗)

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