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ヘルシンキGP

室伏完全復活、 今季自己最高記録で欧州遠征5連勝

室伏広治(ミズノ)は試合前「今日の試合は面白くなりますよ」と、予告宣告した。久しぶりに長年のライバル、シドニー五輪優勝者と戦うことを楽しむように・・・、試合に臨んだ。ヘルシンキGPは7月26日、1952年五輪会場、昨年、室伏が体調不十分で欠場した世界選手権と同じ競技場だ。シドニー五輪覇者のシモン・ジオルコフスキーが1投目からリード。室伏は尻上がりに記録を伸ばし、4投目に80メートル55の今季自己最高を投げ、5投目に81メートル77の大アーチを描いて逆転優勝。ほぼ完全復活の感触を掴んだ。5月末に約1年ぶりに競技復帰を果たし、わずか2カ月で世界トップに返り咲いた。ジオルコフスキーも5投目に記録を伸ばしたが、4年ぶりの長いスランプから復活の81メートル42で2位。室伏は試合後、今季の欧州遠征をこう総括した。

「フィンランドで競技することは初めて。聞きしにまさる『投てき王国』ですね。ここに来てからメディアの扱いも、ほかの欧州で経験したことがないくらい非常に多くて驚きました。スタンドからの大きな声援、反応からすごく投てきに関心があることが分かりますね。今日は欠場した世界選手権の分も合わせて頑張っている姿を見てもらえて良かった。今季2回目の欧州遠征は思ったより結果が伴って、1回目より格段に良くなっています。しかし、そういうことよりライバルと戦えてよかった。ジオルコフスキーは7月15日、ほぼシドニー五輪優勝前後の調子に戻り、82.31mを投げて復活してきた。彼が『なんで今回も逆転されたのか!』と言ってきたので、『欧州選手権のために免疫をつけてやったんだよ』といってやりました。このレベルの戦いで、キッチリとした成果を出すことが重要ですね。どんな場合でもしっかり勝てることが大切。欧州遠征5戦全勝の成績も良かった。記録も思っていた以上に伸びましたが、記録には終わりがありません。これらをひとつずつ積み重ねてさらに向上したいと思います。今回は欧州選手権が迫っているのでベラルーシのティホン、デヴァトフスキーらが出場していないが、ジオルコフスキーは間違いなく優勝争いの鍵を握る選手です。今回の遠征はコーチが同行して、現状を理解してもらい、時間を割いてやっていただいて大変に良かったと思います。心理的なサポートを良くやってもらっています。アテネで開催されるワールドカップ出場はまだ分かりません。アスレティックファイナルで一応締めくくって、それからアジア大会に向けて調整します。そして大事な年に向けてがんばりたいと思います。」

この日の競技大会は、最初から至極自然に室伏を中心に回っていた。室伏の自信からくる精神的な余裕か、新しい試みか、いずれにしても投げる合間にもライバルとにこやかに談笑。室伏がサークルに向かう瞬間、観客の目は室伏の動き一点に集中していた。久しぶりに強敵との刺激ある争いを制して、確かな手応えを感じていた。


初の欧州遠征はいい刺激、自信になった

内藤真人(ミズノ)は、あと一歩で110mh日本新記録を経験不足ゆえに逃したといえよう。内藤は五輪、世界選手権以外での欧州GP出場は始めて。ミズノ主体でフィンランド国内で3レースに出場、7月13日、ラピーンランタで自己記録を0.1更新する13秒46の歴代2位の記録で優勝。最終戦は、絶好調で日本新記録に期待が掛けられたものの、ヘルシンキGPでは13秒54で4位だった。

「試合前日、練習で13秒5ぐらいで走っていたので、自分でも記録を期待していました。凄く調子が良くてウォーミングップでは結構走れたんで、もう少し走れると思ったのですが、ほかの選手が2度フライングしたのでちょっとうまくかみ合わなかった。1台目から身体が浮いてしまってうまくは入れなかった。もし、練習のように1台目からイイ感じで入れたなら、13秒26で優勝した選手にもう少し近づいたレースができ、日本新記録かそれに近い記録が出たんじゃあないかと思います。最初の2試合も、大橋祐二と優勝争いをしていたので、ヘルシンキGPで始めてレベルの高いレース参加です。この経験で競技の幅ができたように思えるし、最高の調子で遠征にくれば、ある程度なんとか戦える感触をちょっと感じています。こういう欧州の競り合いのレースは、これまでなかなか故障などで経験がなかったのですが、非常にいい経験になり秋以降のレースに自信になったと思います。日本では13秒5ぐらいの走りでも、結構抜けるので自分のレースができますが、ここでは回りの速さに流されながら、自分のレースがどの程度できるかで、記録が出る可能性を感じます。また、タイトルの懸かった大会と違い、純粋に競技が楽しめますね。」


福士、10000mの日本記録へ挑戦

女子10000mの福士加代子(ワコール)は2位以下を大きく離してゴールに飛び込んでくるや否や、「また、やっちゃいましたよ!」(ガッハッハ!!)と笑い飛ばした。前半を、イレナ・クワムバイ(ケニア)がペースメーカーで引っ張った。彼女の背後にポジション取り、3位はベニタ・ジョンソン(オーストラリア)が追った。ラビットも5000mまで。福士はここから長い一人旅。後続選手がたちまちに大きく遅れだした。バックストレッチで夕日を顔に受け暑い、向かい風もあったが今季世界2位となる31分0秒64で優勝。2位のビニタ・ジョンソン(オーストラリア)、カラ・グチャー(アメリカ)らに14秒以上の大差をつけてゴールしたが喜びはなかった。関西TV局カメラが、福士が渋井陽子の持つ日本記録30分48秒89に挑戦するを特番の撮影で追いかけていたが、暑さと、2週間の短期間で5000m2本、10000mレースに出場した強行日程で疲労が抜けず、走りに精彩を欠き日本記録への挑戦が失敗した。

福士は欧州遠征をこう説明した。
「また、やっちゃいましたよ!日本新記録を出せませんでしたね。そう簡単には行きません。(ワッハハ)5000mを15分25秒00で通過、ペースは73〜4秒ぐらいでそんなに早くはなかったんですが・・・、やはり力不足ですかね。出場選手の多くが、14日のローマGL(注:福士11位、15分03秒17)、20日のベルギーのリエージュ国際大会(6位、15分09秒81)と転戦してきたので非常に疲れています。1年ぶりのローマGLで外国選手と5000mを一緒に走るのは面白かったのですが、世界の長距離トップ選手が集結した激戦レース。暑かったこともありますが、それよりも早いペースを追ったので最後はバテました。ベルギーは急遽5000m出場を決めました。そして26日が10000mですから、予想以上に疲れていたんですね。後半独走態勢に入ってからきつかった。5000mぐらいまでは行けると信じて走っていましたが、5〜6000m辺りで、監督から『3秒足りないぞー!』と聞き、『アッ、ソー。焦ったらイカン!が、焦らないとイカンかなー?』と思って走っていました。後半の5000mを誰かと一初に走れたらよかったんですが、やはりみんなが疲れていたんですよ!しかし、独走もイイ体験になりました。今回の経験で10000mの距離に対する感覚がチョッと課題だったのですが、終わってみると、そんなに長く感じなかったので、多少は、距離に対する感覚がなくなってきていると思いますね。また、チャンスがあれば10000m日本記録に挑戦します。良くみなさんにマラソン転向を薦められるのですが、イヤイヤとんでもない(ワッハハ)。マラソンはこれよりはるかに長い距離で、強い選手がいっぱいいるでしょう。まだまだ、わたしがトラックでやることたくさんあります。」


澤野2大会連続、今季3回目の記録なし

世界のトップ選手が集まったヘルシンキGPの棒高跳びで、澤野大地(ニシスポーツ)は5メートル48を3回失敗。2試合連続、今季3回目の記録なしに終わった。今季1回目の欧州遠征の最初のヘンゲロGPで記録なしに終わったが、続くプラハGPで5.70m、ゲーセットGPでは今季自己最高の5.75mを跳んで2位の好成績だった。7月のローマGLは、日本からの長旅、時差の影響か?5.62mに終わっていたが、続く試合で5.63m、期待された3、4大会目に2回連続無記録の不本意な成績で帰国した。2回目の欧州遠征でアスレティックファイナル出場権ポイントを獲得するはずだったが、4試合で28ポイント、僅差でランク7位。これから欧州選手権、後半のゴールデンリーグ結果しだいでランキング変動が大きくなる。澤野が記録なしで終わった原因は、助走時に起きる足の痙攣だ。

沢野「記録なしに終わったのは、調整、技術とかの問題ではなく、助走で脚が吊ってしまいまともに跳べなかったのが原因です。いろんなことが考えられますが、原因は練習不足、ウォーミングアップ不足かも?とにかく暑かったので水分補給不足、ビタミン、マグネシウムなどが不足しているのかもしれない。または心理的なことかもしれないが・・・、いずれにしても原因不明です。今回、帰国して徹底的に原因追及をしたいと思います。今回2回目の欧州遠征の最大の目的は、今年のアスレティックファイナル出場権獲得を目指してポイントを稼ぐことです。現在、アスレティックファイナル出場可能なギリギリのライン上にいるので、なんらかの痙攣予防対策を取って、8月半ばから始まる3回目の欧州遠征でポイント獲得を確実に果たしたいと思っています。」と、無念の表情にも決意が見えた。


(月刊陸上競技誌、06年9月号掲載)

(望月次朗)

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