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ワコール永山監督、エチオピアに賭ける

「ここで合宿をする発想はどこからきたかと言うと、03年ごろからマラソンだけではなくトラックでも世界1位になりたいと思ったからです。どうしても日本長距離はトラックよりもロードに重点を置きがちです。福士が入社して2年目の頃から、そのような固定観念をなんとか自分たちの手で変えることができないものかとの思いで、まだ目標の半分にも達成していませんが、トラックにこだわってきました。福士の年代のすべての選手がマラソンに挑戦している状況ですが、あえてマラソンを走らずトラックにこだわり続けるのは、日本選手がトラックでも世界で戦えることをわれわれの手で実現するという理想を考えているからです。



福士は5000m14分35秒、10000m30分30秒の力を持っていると思います。パリ(注:5000,10000m共に11位)、ヘルシンキ世界選手権の結果がいずれも11位で終わっています。大阪世界選手権ではメダル獲得は難しいと思いますが、入賞か、できれば5位前後まで持ってゆくことが可能でしょう。わたしは聞いたことがないのですが、彼女の親しい友達には『勝ちたい!』と言っているらしいので大阪ではヤル気十分です。トップ(ディファー、ディババ)との最終ラップ差は、約10秒あります。(注:エチオピア勢は最終ラップを約55秒前後、福士は約65秒)ハイペースで走るレースで、最終ラップをもっと短縮、できれば5秒差ぐらいまで持ってゆかなければ勝負にならないでしょう。福士がいろんなことに目覚め、経験が大きな財産になったのは、昨年ハンガリーのドレブセンで開際された世界ロードレース選手権大会です。あのレースは、福士の先入観、予想がハナから完璧に裏をかかれたようなレース展開でした。福士の予想はスローペースで入り、中盤からビルドアップ。後半ペースが上がると予想していましたが、全く逆で、しょっぱなから福士の10000mの自己最高のペースで入られた。ウォーミングアップ不足も完全に失敗。自分で前について行けなかったショックは、いろんなことを考えさせるいい経験だったと思います。以前からエチオピア高地合宿を考えていたし、ここにくる必然性と機が熟したと思います。

そこで、モンバサ世界クロカン後、エチオピア合宿視察をしたわけですが、具体的に練習環境の素晴らしさは予想以上でしたね。ここで練習すれば結果はおのずとついてくると確信しました。われわれが気がつかなかった雰囲気、こことの出会いが自分たちの中と結びついていると思います。これまで昆民、ボルダーで合宿経験があり、それぞれの利点があったと思います。しかし、エチオピアはこれから発展してゆく国。ほかの高地練習環境にない社会的な背景の違い、国情、選手のハングリーなものを肌で感じるられるところです。福士らが練習で一緒に走る無名の若い選手らも、大きな夢を持って練習に取り組んでいます。福士らが無名の16,7歳の若い子らのジョッグに全く付いて行けない。われわれが彼らに追いつくのはとんでもないことだと、簡単に考えすぎていた部分もあります。目、肌で『長距離王国』を感じます。高地生まれだから強いというのではなく、われわれの眼にはっきりとそれ以外のこと、特に、大きな『夢』、意義を持って取り組んでいるという、根本的な競技への姿勢、論理が違うと思います。日本選手は、これがマラソン練習法だという固定観念に縛られているようなところがありますが、違った練習法でここの人たちは結果的に質の高い選手を作り出しています。

ここの皆さんは諸手を上げて歓迎、施設などを自由に使わせていただき感謝しています。日本でエチオピア情報は少なく、アフリカ選手が日本にくることはあっても、大会、イベントを盛り上げるだけの本当の交流は少ないと思います。わたしは将来的に、まずここにきて基本的な走りをしっかり作って昆民らの連携で時差調整、日本で最終調整を行い、日本選手権に望むというパターンを、うまく行けば世界選手権でもプロセスとして使ってみようかと思っています。また、駅伝でも十分効果的だと思います。皆さんが思われるように、トラックの5000m、10000mで勝負するよりは、マラソンでメダル獲得のほうが確率は高いと、わたしも同じような考えを持っています。大阪世界選手権の結果が良くても悪くても、マラソン転向の可能性はあります。マラソン転向云々は、福士のモチベーションがしっかり固まればそれほど難しいとは思いません。ここの練習そのものがトラック練習ではなくクロカン主体なので、不整地な場所をかなり長時間走りこんでいますから、マラソンの下準備にもなっています。もちろん初マラソンですが、本人の気持ちがキチットするなら、かなり走れると期待しています。五輪選考レースで上位になるのは、それほど難しいとは思いません。無難に乗り切ってくれると確信しています。」

 
(07年月刊陸上競技誌7月号掲載)
(望月次朗)

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