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世界陸上直前! アサファ・パウエル(ジャマイカ) Asafa Powell
ジャマイカが誇る史上最速スプリンター 大阪で念願の初タイトルを!

大阪世界陸上の「華」は、やはり男子100m決勝。9秒77の世界記録を保持するジャマイカの星<Aサファ・パウエル(25歳)の快足が、世界を熱くする瞬間だ。パウエルは自他ともに認める生粋の「スプリンター工場」、ジャマイカ生まれの史上最速男。本格的に陸上を始め、わずか5シーズン目の05年に9秒77の世界記録を樹立し、06年は2度の世界タイ記録をはじめ、1シーズンに「サブ10」を史上最高の12回も記録した。優勝候補に挙げられていた前回のヘルシンキ世界陸上は故障で欠場しているため、大阪大会では念願の初タイトル獲得に全力を傾ける。



牧師の両親に厳しく育てられ神のご加護で名選手に

アサファ・パウエルは、ジャマイカの首都・キングストンから車で北へ1時間半ほど走ったところにあるリンステッド村の出身。両親がキリスト教の牧師という家庭に育った。6人兄弟の末っ子。今ではキングストンに住居を構えるパウエルだが、日曜日に行われる礼拝のため故郷の教会に駆けつけ、ベースギターを弾き、兄のナイジェルがキーボードを演奏して教区の人たちと賛美歌を歌う。

父親のウィリアムス牧師が息子・アサファを礼讃した。
「アサファは神から授けられた才能、神のご加護で世界最速スプリンターになった」
「ハレルヤ!」
絶叫する参列者の復唱が素朴なとたん屋根の天井に響く
「神のご加護なくしてアサファの夢は成就しなかった」
「ハレルヤ!」
「アサファの走る姿は天使のようだ!」
「ハレルヤ!」
教会内の熱気は、最高潮に達した。  それでもパウエルは、「敬虔な信仰、教えの下でしつけられて育った。常に控えめな態度、冷静、理知的に物事に対処するようにしてきた」と落ち着いていた。

元スプリンターの父親から受け継いだ遺伝なのだろう、兄弟全員が10秒40〜50の記録を持つスプリンター。パウエルは01年、11歳上のドノヴァン(100mベスト10秒07/97年アテネ世界陸上100m準決勝進出、99年世界室内60m6位、00年シドニー五輪400mリレー代表)の影響を受けて陸上を始めた。

ところが02年、マイケルとヴォーン、2人の兄がアメリカでの交通事故で死去。家族の衝撃はあまりにもひどかった。パウエルが本格的に陸上を始めたころドノヴァンは反対したが、他の家族は両親を励ますためにも陸上を続けることを勧めてくれた。パウエルの世界的な活躍が唯一、家族の絆を深く結びつけ、朗報を送ることが大切な使命だったという。

そんなパウエルは05年、ライバルのアメリカ選手(モーリス・グリーン)が保持していた世界記録を破る9秒77をマーク、国民を狂喜させた。「僕の活躍がジャマイカのイメージ、誇りになれば幸いです」と話す最速王は、伝説のレゲエ歌手、ボブ・マーレィ並の国民的アイドルになった。

地元ジャマイカに残る異例のスプリンター

過去も現在も、ジャマイカのスプリンターはアメリカを基盤に、持てる素質を開花、活躍するのがパターン。しかし、パウエルは母国に残り、ジャマイカ人コーチの指導によって才能を伸ばしてきた異例の選手だ。06年に自己の世界記録と並ぶ9秒77の世界タイ記録を2度もマークしたのは史上初の快挙。国民はパウエルの快挙に沸きあがった。

多くの選手にとって9秒台を出すのは至難のことだが、パウエルの快記録の数々は、190cm、88kgのすばらしい身体的素質と、非常に効率がいい天性のスプリント・メカニズムによって生産される、といわれる。

パウエルはライバルのアメリカ選手たちについてこう説明する。 「アメリカのスプリンター選手は、作られた筋肉マンだ。僕らはジャマイカの食材を摂り、芝生のトラックで練習し、生まれ持った才能と努力によって世界と戦えると信じている」  パウエルは、名誉と富を得たスパースター。ジャマイカのビバリーヒルズ≠ニ呼ばれる高台の高級住宅地に住み、高級車を駆ってキングストン工科大学に通う学生でもある。

大阪ではまず優勝、そして世界新を!

パウエルは今季、「記録よりも大阪陸上での優勝」を最大の目標に掲げてきた。6月15日、ゴールデンリーグ初戦のオスロGLに9秒94で楽勝したが、6月末のジャマイカ選手権で優勝しながらゴール後に倒れ、「パウエル故障」のニュースが世界中に流れた。7月6日のパリGLは欠場したが、その5日後のローザンヌ・スーパーGPでは400mリレーの第4走者を無難に走っている。

大会欠場、フラットレース回避などで世界のファンを心配させたものの、これらは大会主催者らとの出場料を巡っての駆け引きが起こした事件≠ナもある。

7月13日、パウエルはローマGLに9秒90の今季自己最高タイムで圧勝して完全復調をアピール。ファンや関係者をホッとさせた。「心配な要素はまったくない。いい感じで走れた。今年大切なことは記録より、大阪まで故障せずに走ることだ」。内容は控えめながら、パウエルは自信たっぷりの表情で話した。

初来日だった昨年9月のスーパー陸上(横浜)では、フライングで失格して日本のファンを失望させた。だが、2度目の来日となる今回の大阪世界陸上では「優勝して真の世界一になりたいし、できれば世界記録をもっと短縮したい。おもしろいレースになるだろう」と抱負を述べた。 「すべての条件が整えば9秒68で走ることが可能だ」と断言するパウエルの走りは必見だ。

 
(大阪世界陸所公式ガイド掲載)
(望月次朗)

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