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池田、欧州遠征は無駄ではなかった

大阪世界選手権大会では、悪夢を見ているように地元選手が次々と期待外れの惨敗に終わった。200m2次予選で敗退した末続慎吾は、これまで経験したことがない脱水状態と酸欠で激しい頭痛が起きたとか、400mHのトップハードラーの為末、棒高跳びの澤野らも予想外の結果だった。そして、期待された池田久美子も、7m越えどころかあのドーハアジア大会で輝いたジャンプが消えて予選落ち。池田は「いつのまにか自らを失い、そのまま流されてしまった」と、キャリア最大の重圧と戦って敗れた。池田が念願のスチュットガルトで開催されたワールド・アスレティック・ファイナルに出場したとき、選手宿泊ホテルで川本和久コーチと一緒に「欧州遠征総括」をストレートに訊いた。

−今季は初めての欧州遠征3回目になりますが、「欧州遠征総括」を訊きたいと思います。始めに、欧州遠征計画の根拠はなんでしょうか?
池田−最初に澤野さんから欧州遠征の話しを聞いて刺激を受けました。その後、為末さんからも世界のトップ選手と戦う必要性などをアドバイスされました。
川本―日本国内ではお山の大将です。池田が6.20〜30m跳んでしまえば楽勝してしまう状況ですから、世界の強豪選手と戦う海外に目を向ける必然性があったのです。そこで勝負強さを習得して記録も目標にしてきました。

−いつかは海外に出なければならない必然性があっても、結果的に失敗でしたね。
池田−確かに、国内で調整したほうがリスクはなかったでしょうが、跳べなかった原因は諸問題が積み重なって、頭で理解していても、それに身体が無理やりあわせてついてこれなかった、余裕がなったのだと思います。
川本−積極的に思考すれば、この苦い経験は大阪では予選落ちしたが、五輪1年前の年でよかったと。来年この経験を五輪で十分に生かすことができると思います。このような失敗の積み重ねで選手は成長しますから一概に失敗とは言えません。

−ドーハ・アジア大会優勝後、日常生活が激変した反動も影響しませんか?
池田―そうですね。12月一杯は休養に当てていて、帰国と同時に練習は休んでいたのですが、取材を1日10本消化しなければならない日があって疲れました。
川本−いつの間にかマスコミの波に乗っかって、見ていても「まずいな!」と思っていましたが、われわれの周囲の人たちは、マスコミ対策が全くわからなかった。高い代償を払ったとは思いませんが、一度はこのような経験しなければ気づかなかったことでしょうね。

−「イケ・クミ」なんていわれ始めましたね。
池田−そうなってくると、流れを止めるような発言は勇気が必要ですね。やはりこれからはできることなら自己管理も大切なこと。
川本−あのような状態になると、好むとも好まずともいろんな勘違いが起きてきますね。

−マスコミに煽られすぎた?
川本−それもあるでしょうね。自己管理も楽ではありません。(笑い)「7m」ジャンプは区切りがいいから、いつの間にか池田までも「7mジャンプ」を無意識に口をするようになりましたね。大体、あと「14cm」と簡単にマスコミは言いますが、そんな簡単なものじゃあない!池田は80台を2回しか越えていないんです。7mを越えるには、80から90台をコンスタントにとべる実績を作って、初めて7mの大台が実現する可能性が出るのです。池田は生みの苦しみを味わったと思います。
池田−確かに区切りのいい数字ですし、わたし自身も7mを跳ぶのは大きな目標です。どこでも7mが期待されてきた。海外遠征でそれほど結果は良くなかったのですが、知らずに「跳ばなければならない」と義務感にジワジワ縛られてきました。日本選手権はやはり異常な雰囲気でしたね。踏切などの技術的な問題もありましたが、予想外の重圧は凄かったです。

−「7mジャンプ」の鍵が見つかりましたか?
川本−「鍵」は、池田が試合で見つけるものです。野球でも打撃練習のボールをガンガン撃つことと、試合で投手が投げてくる生きたボールを打つのとは大きな違いです。生きた球をしっかり見極めて身体が反応して打たなければ本物のではありません。マジックナンバー「7m」は必ずだします、ださせます。試合でちょっとしたきっかけさえあれば、ドーハのようなジャンプに戻れば、結果はおのずから出てきます。今季はイイ勉強をしてきたと思います。
池田−頭の中ではわかっているつもりなんですが、技術がまだついてこないような状態です。欧州のGPのように数センチの差に、数人の選手が順位争いをするような密度の高い一瞬たりと気の抜けない試合経験が多く必要ですね。そしてその熾烈な競争の中でいいジャンプを習得したいものです。

−ワールド・アスレティック・ファイナルの印象は?
池田−ファイナル出場が夢だったんです。記録は6.48mでしたが、わずか4センチ差で3位、2センチ差で5位で密度が濃い試合内容でした。
川本−全体に記録は良くなかったが、それでもこのメンバーで4位になったのは感激したね。1,3回の試技でファウルしたのは、積極的に攻めの試合をしたので大きく評価しています。

−これが今季最後の試合ですか?
川本−いや国体に出ます。と言うのも池田には出場する義務があると思います。昨年、池田が国体でアップを始めると、高校生、コーチ連ら一斉に池田に注目しました。
−来季、欧州遠征にこられるのを楽しみにしています。

 
(07年月刊陸上競技誌11月号掲載)
(望月次朗)

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