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エチオピア勢強し!6冠獲得、ベケレ、ディババ、リベンジを果たす

日本ジュニア大健闘、女子団体3位、男子4位

スコットランドの首都エディンバラのシンボル、エディンバラ城が小高い丘にある。中世のたたずまいの街全体が世界遺産に登録されている。ウィスキーの故郷でもあり、ハリーポッター初刊がここで書かれている。第36回世界クロスカントリー選手権大会が、街の東側にあるホリールード公園で開催された。気まぐれの天候は、心配された小雨からジュニア女子のレースが終わるころにはやみ、大会が終わるころには薄日が差してきたのは幸いした。コースの平坦なところは泥沼状態から滑り止めの敷物を置いた急斜面の登坂から、一挙に下りのある難コースだ。撮影のためでもこの坂登りはきつかった。昨年のモンバサ大会では、世界クロカン無敗のケネニサ・ベケレ、ティルネシュ・ディババらが、不慣れな高温多湿の気象条件に無残にも敗れ、エチオピア勢は無冠に終わった。その巻き返しを図って、エチオピア勢は周到な準備とハード練習によって、男女シニア、ジュニア、女子、ジュニア女子団体6冠獲得を達成した。日本勢では、女子ジュニアで二宮は、アフリカ勢以外でトップの10位。日本女子ジュニアチームが大健闘、2年ぶり13回目の銅メダル獲得を獲得した。



:ジュニア女子レース(参加23カ国、参加数66人。距離6040m、ショート1周、ロングコース2周。ショートは平坦だが、ロングコースに「Haggis Knowe」と呼ばれる山を回る急勾配の上下坂がある)

ゲンゼバ・ディババ、初優勝、二宮10位に食い込む健闘、日本チーム3位

エジャガユ(アテネ五輪10000m2位、25歳)、ティルネシュ(世界クロカン3勝、世界選手権10000m3連勝など、22歳)・ディババ姉妹らの妹ゲンゼバ(17歳)が、姉のティルネシュ張りのスムースな走り、巧みなレース運びで初優勝。前回モンバサ5位の鬱憤を見事に果たした。ゲンゼバは「昨年は5位だったので、メダルを狙ったがまさか優勝するとは思わなかった。レース前、姉のティルネシュのアドバイス、コースは泥沼状態なので先頭に立って走ると疲れる。前半は後方からレース展開を見ながら慎重に走り、最後の登りで勝負を掛けるように言われました。3周目になって勝てると思いました」と、大喜びだった。上の姉らからの誘いでアディスに出てきて2人の姉と一緒に住んでいる。数年前から本格的な練習を積んできた。今年の国内レースでは2位に終わっているが、血筋なの渋とい勝負強さを持っている。明るい笑顔で姉とは対照的だ。残り1周、先頭集団はエチオピア、ケニアからの4選手の優勝争いに絞られた。ディババが急斜面の登りでトップに立つとそのまま転がるようにゴールイン。優勝タイムは19分59秒。2位のイリナ・チェペット・チェプタイ(ケニア、16歳)は、「強い寒風に悩まされたが、最後のスパートで2位になれたので満足です。来年は優勝を狙います」3位のエメブト・エテア(18歳)は、「昨年の大会後、疲労回復に3ヶ月掛かったので、今日のレースは楽だった。」と嬉しそうだった。一方、日本選手もエチオピア、ケニア選手らとスタートからトップ集団に加わるか、その背後に続くのが通常のレースパターンだ。二宮、松村、加藤らがお互いに競うようにして先頭集団をフォローした。急斜面の登り坂、下り坂の難関のコースでアフリカ勢と差が開いたが、二宮がアフリカ勢を除くトップで20分30秒で10位と大健闘した。

:団体優勝は、1カ国6選手参加、上位4名の順位の合計ポイントが少ないチークが優勝。エチオピアが16ポイントで優勝、2位はケニア、日本が57ポイント獲得して2年ぶりに3位。参加選手は1カ国6名、上位4名選手の合計順位で団体成績が決まる。以下は日本選手上位4名のコメント。

:10位、二宮、20分30秒 「アフリカ選手と体力差を感じたので、今後もっと練習して強くなりたいと思います。」

:14位、松村、20分47秒 「昨年は18位だったが、今年は14位で成績を上げたのが嬉しい。前回より緊張もなくレースが楽しめました」

:15位、加藤、20分48秒 「平坦ではそれほど疲れたと思わなかったが、坂が非常にきつくてバテました。いい国際レース経験をしました」

:18位、森、 21分02秒 「クロカンといってもこんな急勾配の上下の坂は始めてです。良い経験をしたのでトラックシーズンに向けてがんばります」

以下、26位、竹中、21分15秒、48位、安部 22分15秒だった。

:ジュニア男子レース(参加30カ国、参加数109人。距離7905m、ショート2周、ロングコース2周)

世界クロカンと言えば、どのレースもスタート直後からエチオピア、ケニア勢が常連だが、最近ではエリトリア、ウガンダ勢らが先頭集団に加わって横一線に並ぶ。エチオピア勢は先頭集団の背後にポジションを取った。その中に、数年前からケネニサ・ベケレに継ぐ逸材として注目されてた大柄のイブラヒム・ジェイラン・ガシュ(エチオピア、18歳)が、トップ集団の背後で同僚のアイェレ・アブシェロと並走。ジェイランは16歳の10000m世界記録27分02秒81、5000mを13分09秒38の記録の持ち主だ。16歳で出場した福岡で5位。昨年、優勝を期待されたモンバサ大会では暑さで途中棄権。苦汁を飲まされた経験から慎重なレース運びだ。10人前後のケニア、ウガンダの選手でトップ集団を構成。エチオピ勢は背後で冷たい風を避ける。最後の4周目までベンジャミン・キプラガト(ウガンダ、19歳)が積極的にリードしたが、急斜面の手前で最初の仕掛けたのはアブシェロだ。ジェイラン、ロティッチらが懸命に追う。坂を登りきった地点でジェイランがトップに立ち、急斜面の下り坂でさらに差を広げてそのままゴール。優勝タイムは22分38秒。2秒遅れで同僚のアブシェロ、3位はさらに2秒遅れで世界ユース3000m2位のロティッチ(ケニア、17歳)だった。ジェイランは優勝の喜びをこう語った。「やっと念願の世界選手権で、神様のおかげで勝つことができた。2位になったアブシェロとお互いにうまく助け合った。ぼくらが所属するムゲル・セメントの仲間の女子ジュニアでゲンゼベ・ディババが幸先の良い優勝してくれたのでこれで2勝目。最後に、ケネニサが優勝すれば最高です。昨年、モンバサ大会の後遺症でトラックでまともに走ることができなかったが、今年は五輪10000m出場に向けてがんばりたい」

TAMURA Hirotaka(?)が、やはりアフリカ勢以外の選手でトップの23分55秒で20位に食い込んだ。続いて、32位、栗原、24分30秒、33位、佐々木、24分31秒、34位、柏原、24分33秒、37位、村澤、24分36秒、44位、千葉、24分49秒の順位だった。

:団体優勝はケニアが21ポイントで10連勝、2位は28ポイントのエチオピア、3位は37ポイントのウガンダだった。日本男子ジュニア団体で119ポイントで4位に入り大健闘を見せた。しかし、3位と72ポイントの開きで実力差は大きい。ある関係者は、「日本選手もこの年代までは十分に世界と戦えるが、ここから先の指導、環境、問題点など、どのような「伸びしろ」の可能性があるか研究の余地が大いに残されている」と語った。

ティルネッシュ・ディババ復活か、珍しい姉妹優勝

:女子レース(参加30カ国、参加数97名。距離7905m、ショート2周、ロングコース2周)

ティルネシュ・ディババ(エチオピア、22歳)は、珍しく笑顔でゴールテープを切った。3勝は、リン・ジェニングス(アメリカ)、叔母のデラル・ツル(エチオピア)と史上最多優勝タイ記録だ。昨年、高温多湿のモンバサ大会で3連勝をローナ・キプラガト(オランダ)に阻まれたが、「妹の優勝に刺激されて不様なレースはできなかった」と、妹の先勝に刺激されたようだ。ディババはこれで金メダル5個獲得。グレタ・ワイツ(ノルウェー)とタイ記録。メダル獲得総数は史上最多の14個。ディババの優勝は楽ではなかった。大阪世界選手権でもレース中に原因不明な腹痛に悩まされ、その後、渡米して精密検査を受けたが、原因がはっきりしなかったらしい。

レースはスローペースで始まった。平坦コース2周まで、地元選手とアメリカ人選手がレースを引っ張った。3周目から本格的なレースが展開され、アフリカ勢がトップに立つとペースアップされた。難所の急斜面の上下を通過するごとに脱落者が出る。ゲレテ・ブルカ、メスタウェト・ツファ(エチオピア)らが先頭を奪う。リネット・マサイ、ドリス・チャング、ヒルダ・キベット(ケニア)らが並走、優勝者が絞られてきた。ディババは、最終ラップ1kmを残した地点でさらにズルズル落ち込んできた。ディババは、「腹痛が起きて走れなかった。でも、幸いに直ぐに回復してきたので攻勢を掛けた」と、レース後に説明があった。ディババが猛スパート。急斜面に差し掛かる前でトップに立ち、上り坂を難なく駆け上り、5秒の大差をつけて25分10秒でゴールイン。優勝の喜びを「叔母のツルがこの大会で3勝しているのは知っていました。タイ記録になって光栄に思います。この大会は非常に大切なもの。厳しい練習の結果です。勝ったのは嬉しいが、私の優勝より妹の優勝のほうが喜れしい。妹のレースを心配して見ていたのでウォーミングアップもろくにしていません。妹が最初に優勝したのに刺激されて絶対に勝つつもりで走りました」と語った。2位は同僚のツファ、リネット・チェプクウェモイ・マサイ(ケニア、19歳)がさらに3秒遅れの25分18秒で3位。日本選手トップは、野原が27分35秒で46位、堀越が27分40秒で47位だった。

団体優勝はエチオピアが18ポイントで1位、2位ケニア、3位はオーストラリア。日本は207ポイントで10位。

ケネニサ・ベケレ圧勝、12個目の金メダル獲得

:男子レース(参加48カ国、参加数187名。距離12125m、ショート2周、ロングコース4周)

レース1週間前、ケネニサ・ベケレ(エチオピア、25歳)とかれの自宅で逢った。その時の印象は、世界クロカン調整に余裕の自信。ホホが削ぎ落とされ精悍な表情だった。「やるな!」と印象を受けた。が、ベケレはエチオピア航空がロンドン着が遅れたため、ヒースロー空港で1泊。レース前日にエディンバラに到着して関係者が心配した。その夜、食中毒で下痢。寝不足だったとか。しかし、トラブルはこれで終わったわけではなかった。スタートからベケレ中心でレース展開された。スタートから7分経過、約3km、場内アナウンサーが「ベケレのスペイクが脱げた!」と絶叫した。レースは始まったばかりだが、このクラスでスパイクが脱げたのは、ほぼ致命的なギャップが生じる。この状況をベケレは「こんな経験は初めて。チョット慌てたね。完全にスパイクが脱げたわけではなかったが、止まって穿きなおした。先頭集団に追いつくのは非常にきつかった。あそこで慌てて全力で追い上げると後半体力の消耗が激しいので、クールに徐々に追い上げたのが成功した」」と説明した。

ベケレは7km付近で先頭集団に追いつき、残り2周、約4kmを残して、昨年の優勝者ゼルセナイ・タデセ(エリトリア)、ベケレ、レオナルド・パトリック・コモン、ジョセフ・エブヤ(ケニア)らの4人の優勝争いに絞られた。懸命にタデセがスピードアップしたが、ピタリと背後にケニアの2人、さらにベケレが続く。1周を残してトップ争いからわずかに脱落したのは、エブヤ、タデッセらだった。ベケレが機を見て仕掛けたのは、急斜面の手前でトップに立ち、登りでさらに差を広げてゴールまで独走。優勝タイムは34分38秒。2位は3秒遅れでコモン、3位はさらに2秒遅れの34分41秒でタデセが入った。これでベケレは、個人、団体優勝を含むと16個の金メダルを獲得。史上最多優勝6回、ジョン・グキ、ポール・タガート(ケニア)らの5回を越えた金字塔を打ち立てた。なお、エチオピアは個人タイトル4種目のすべてに優勝。この快挙は、1994年のケニア選手以来のこと。日本選手のトップは岩水が38分11秒で89位、さらに8秒遅れで佐藤悠基が94位だった。

:1チーム参加9選手、上位6選手の合計順位の獲得ポイントで決まる。団体優勝は39ポイントで無敵のケニア、2位が105ポイントでエチオピア、3位が144ポイントでカタールだった。

 
(08年月刊陸上競技5月号掲載)
(望月次朗)

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