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世界がウサイン・ボルトを待っている、

今季のボルトはジャマイカ国内で400m、アメリカのペンリレー大会4x100mリレーで走っているものの、本格的な参戦は5月19日、来年世界選手権開催地、韓国のテグだった。陸上界を飛び出て世界のメガスターになったウサイン・ボルトの出場料金は、一説によると20万ドルを超えるとか。ドーハDLでアサファ・パウエルが追い風参考記録ながら9秒75で走っているのは、ボルトの念頭にあって多少の刺激になることは十分察っせられた。ボルトのスタートリアクションは遅く、エンジン全開まで20m以上の距離が掛っての9秒86で優勝。シーズン開幕レース、しかも「ほぼ無風状態で悪くない記録」とボルトのコメントだ。

この4日後、ボルトは上海DLに参戦した。レース前日、上海の目抜き通りにあるプーマ中国旗艦店で、ボルト自身のデザインのよる2点のT シャツが世界に向けて発表された。

ボルトは、「ぼくのアイデアを生かして、若者をターゲットにデザイナーらとのコラボで完成したもの」とか。もちろん、ボルトが北京五輪で活躍した知名度を十分に生かした中国国内での巨大市場がターゲット。ボルト一行は、滞在先のホテルから店までパトカーに先導された。車を降りると、頑強なボディガードが付き添って移動。入場限定された大きな店内で揉みくちゃにされたが、それでもビジネスと割り切って2時間ほど地元メディアに機嫌よく対応した。

DL初戦は男子100mが行われたので、次のDLは同じ種目が行われないシステム。ボルトは200mでDLデビュー。記者会見で、「速い記録を狙う」と公約通り、スタートから飛ばして、2位以下を大きく離してゴールまで全力疾走。タイムは19秒76だった。

「全体的に走りは悪くなかった。5月1日、地元のバックアップがあったキングストンで出した19秒56と比較すると、冷たい風が吹いていた今日の状況からみても記録は満足している」

ボルトは、「今季は100,200mで世界記録に挑戦する予定もないし、大きな選手権がないので、3年に一度多少は息抜きができるシーズン。ここ数カ月、新しいビジネスパートナー、プロジェクトが展開されて多忙を極めた。プーマの新デザインのスポーツウェア、「ウサイン・ボルト」、スイス時計、キングストンにオープンしたスポーツバー、「ウサイン・ボルト、Tracks & Records」、「Lightning Bolt Track」と命名された競技場も西インディズ大学にオープン」と、公私に超多忙とか。

5月27日、ボルト一行は、チェコ北東のポーランド国境に近い町、オストラヴァに移動。恒例の第49回「ゴールデンスパイク」と呼ばれる伝統的な大会の300mに出場。かつてのチェコの英雄、エミール・ザトペックも大活躍した競技場。この大会はDLよりワンランク下に新設された「Golden Challenge」(大阪と同ランク)と呼ばれる。この町はかつて炭鉱、鉄鋼業で栄えた町らしいが、現状はその面影も乏しい静かなところ。2.5万人収容する小さな競技場だが、毎年世界中のスター選手を招聘する財力がある。今年も、ウサイン・ボルト、アサファ・パウエル、デイロン・ロブレス、シェリーアン・フレイザーらのスター選手が勢ぞろいした。

残念なことに大雨に見舞われた。気温も13度ぐらいで肌寒かった。

それでも超満員に詰め掛けた陸上競技好きな観客は、ボルトが出場する最後の種目、2000年3月24日、南アの首都プレトリアルでマイケル・ジョンソンが出した300mの世界記録30秒85への挑戦を雨中で見守った。ボルト出場の300mレース前、アサファ・パウエルが100mで9秒88を記録して予選通過。決勝でも向かい風0.5mの中9秒83を記録。ボルトが1週間前のデグで出した9秒86を破る今季世界最高記録で圧勝。このレースは、1967年チャールズ・グリーン(アメリカ)が樹立した100ヤード世界記録9秒21への挑戦でもあった。パウエルは予選でも100ヤード通過記録が9秒09、決勝で9秒07といずれのレースでも世界最高記録。この夜の主役は、ボルトよりむしろパウエルだったろうか。

ライバルのパウエルに刺激されたのか、ボルトはスタートから飛ばした。しかし、30秒97とジョンソンの高地で出した世界記録をわずかに破れず、史上第2位の記録に甘んじた。

「上海、ここでも天候に恵まれなかった。最初の200mを早く入りすぎて後半伸びなかった。しかし、300mを走るコンディションではない」しかし、ボルトの記録は平地の世界一、ラショーン・メリットの持つ31秒30を大きく破る記録だった。こんなややこしい世界記録よりも、ボルトは自分見たさに最後まで席を立たなかった観衆に挨拶しながらトラックを一周した。

6月1日、ボルトはオストラヴァでアキレス腱を痛め、ミュンヘン在の世界的に著名なハンス・ミュラー―ウォルファールト博士クリニックでチェックを受けた結果、2,3週間の休養をアドヴァイスされた。大事を取ってニューヨークDLキャンセルを発表した。8月にブリュッセルで行われるDL今季最終戦ではスプリント世界最強ウサイン・ボルト、タイソン・ゲイ、アサファ・パウエルによる「3強対決」が実現する。

 
(10年月刊陸上競技7月号掲載)
(望月次朗)

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