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ダイヤモンドリーグ開幕、緒戦から波乱続き

昨季から世界陸連(以下IAAFと略す)が新設した各種目の世界のトップが集結した「ダイヤモンドリーグ」(以下DLと略す)がドーハの緒戦を皮切りに上海、ローマで開催された。今季、8月末から開催されるテグ世界選手権大会があるためだろうが、前回のベルリン世界選手権大会優勝者は出場権を持っているためか、8月末のテグ大会にゆっくり調整するのでスロースタート。5月いっぱいまで開催された3大会のハイライトのレポートです。

新旧波乱の屋外シーズン開幕

恒例のドーハDLが緒戦だ。男子400mHで2月に高地のプレトリアで47秒66の好記録を出したルイス・ファンジル(南ア)が48秒11で優勝。同国のコルネル・フレデリックスも48秒43で2位だ。ファンジルは「今季からコーチを変えた。400mも44秒86と記録を伸ばした。世界選手権で優勝を狙う」ときっぱり。南半球の選手が北半球で開催される世界選手権に付きものの、調整の難しさをどのように克服してくるかが問題。その後、ローマDLを47秒91で優勝。オストラヴァWCを今季世界最高記録、大会新記録、南ア新記録の47秒66で圧勝した。例年、ドーハの小さな競技場の第1コーナー付近は、カタールに出稼ぎで働いている数百人のエチオピア人が指定席で陣取る。この観客を狂喜させたのが、本格的な練習を始めてまだ3年の「新星」ヤニュー・アラミリュウ(20歳)だ。男子3000mに出場、エドウィン・ソイ、エリュード・キプチョゲ(ケニア)らのトップ選手を爆発的なスプリントで一瞬にして抜き去って今季世界最高、大会新記録の7分27秒26優勝。3位まで7分30秒を切った白熱したレースだった。男子やり投げのアンドレアス・トルキルドセン(ノルウェー)は、滅多に3位以下になることはないコンスタントな結果を出す選手。試合中の微調整を正確に整える能力の持ち主だが、83.63mを投げ5位に首をかしげていた。優勝はペター・フライドリッヒ(チェコ)が2投目に85.32mを投げて優勝。男子棒高跳びで優勝候補筆頭のレノード・ラヴィネリ(フランス)はタイミングが合わずに5・50mを跳んで4位。男子砲丸投げでディラン・アームストロング(カナダ)が21・72mの好記録でアメリカ勢を突き放して優勝した。

女子400mではアリソン・フェリックス(アメリカ)が50秒33の今季世界最高記録で優勝。地元選手の活躍も目立った。男子200mで昨年アジア大会100,200mの2冠を獲得したアジアナンバーワンのフェミ・オグノデがワルター・ディックス(アメリカ)の20秒06に続く20秒36のカタール新記録で2位。男子走り高跳びで19歳のムラズ・エサ・バルシムが自己タイ記録の2.31mを跳んで3位。

上海DL
劉翔強し!劇的なカムバック

レース当日の朝食で劉翔と久しぶりに一緒になった。「元気?」と話しかけると、「いや、手術の経過は良好だが、まだまだリハビ最中。練習も思い切った練習を消化できないが、焦らないでテグ大会前まで故障のないように調整したい。今日は今季初の屋外シーズン。怪我をしないように」と笑っていた。が、大会の最終種目の110mで劉翔は絶好のタイミングで飛び出し、最盛期を彷彿させる切れのあるハードリングで09年8月31日以後負け知らずのデヴィット・オリヴァ―(アメリカ)を全く寄せ付けず圧勝。嬉々として観衆に応える久々のウィニングラン。長い故障からカムバック。本人自身も予想外の結果だった。「今季初の屋外レースでまさか13秒07の好記録が出るなんて!予想外のこと。スタートが良かったし、中盤の走りもリズミカルで終盤も良かった。今夜のレースは新しい走りでテストした。スタートから最初のハードルをこれまでの8歩から7歩に切り替えた。これはあくまでテストケース。まだ完成したわけではなく、これからもっとスピードを加えてリズムを失わない練習をしてゆく。感じとしてスタートから最初の7歩で1台目に入るのは、気に入っている。今夜オリヴァーに勝ったが、明らかにかれはちょっとナーヴァスだったような気がした。かれのベストのフォームではない。このまま練習を続けることができれば、テグ世界選手権でメダル獲得のチャンスが出てきた」と早くもテグ大会に焦点を合わせてきた。

男子100mでアサファ・パウェル(ジャマイカ)が、後半流して9秒95で楽勝。パウェルは「コーチから故障しないように走れと指示された。最初の大きなレースでこの記録は悪くはない」と好調を確認した走りだった。

男子走り幅跳びでミッチェル・ワット(オーストラリア)が、6回目に8.44mを跳んで優勝。「今季はオーストラリア記録を1cm上回る8.50mが目標。また。テグ世界選手権でメダル獲得だ」と自信たっぷり。

男子やり投げのアンドレアス・トルキルドセン(ノルウェー)は、5回目の試技の助走で内股の筋肉を痛め棄権。

女子100mでは五輪200mで連勝したヴェロニカ・キャンベル―ブラウン(ジャマイカ)がスタートから飛び出しカメリタ・ジェッター(アメリカ)を抑えて10秒92で優勝、2位のジェッターは10秒95。キャンベル―ブラウンは「これはわたしの29歳の誕生日の贈り物」とニッコリ。

女子5000mで好記録続出。上位9名がサブ15分、そのうち4名が自己記録を更新。優勝は隣国同士のヴィヴィアン・チェルイヨット(ケニア)、メセレット・ディファーの練習パートナーで進境著しいセンタイェフー・エジグ(エチオピア)の2人のスプリント争いで決着。チェルイヨットが14分31秒92の今季世界最高記録、2位のエジグは14分32秒87。3位のリネット・マサイは14分32秒95だった。

ローマDL
ボルト対パウェル対決

ウサイン・ボルト(ジャマイカ、25歳)のスポーツ界に与えるインパクトは、80年代のカール・ルイスを彷彿させる。陸上競技の世界を超えるスパースターだ。出場料が破格の20万ドルと言われ、プラスタイムボーナスなど諸々の条件付きであることはいうまでもないだろう。今季最初の本格的レース活動がローマDLから始まった。会場はもちろん、1960年ローマ五輪、1987年第2回世界陸上選手権会場など歴史的な「オリンピコ」だ。ローマDLは競技前からボルト一色。ボルト見たさに4.7万人の観客が集まった。子供たちもかなりの数だった。

そのボルトは、レース前からトップシェイプではないが「いいレースを見せる」と公言。上海で好調な走りを見せたアサファ・パウエル(ジャマイカ、29歳)との最速スプリンター直接対決に興味が集中した。また、黒人選手以外で初の9秒台に突入したクリストファ・ルメートレ(フランス、20歳)がどこまで食い下ることができるか、今季の成長ぶりを測るテストレース。

しかし、ボルトはまだまだ本来の調子ではなく、好調のパウェルの追い上げに苦渋の表情で大苦戦。9秒91で辛勝。ボルトは「もっといい走りができたはずだが、現状はこんなもの。勝って良かった」とホッとした表情。一方、パウェルはあいかわらずなぜか大事な一戦になると緊張して持ち味が全く出ない。9秒93で2位になったが不完全燃焼気味だった。レース後「ボルトに集中し過ぎた。勝てたレースだが、レースの集中力を欠いたのが悔やまれる」と言っていた。3位になったクリストファ・ルメートレ(フランス)がボルト、パウェルに80mぐらいまで食い下がる健闘を見せた。

男子5000mに世代交代の若い選手が現れた。今年の世界クロカンで優勝したイマネ・メルガ(エチオピア)が12分54秒21の今季世界最高記録で優勝。2位に弱冠17歳のイサイア・コエチ(ケニア)が自己新記録の12分54秒59で食い込んだ。メルガは、「今季最初のトラックレース。思ったような走りができた。後半スピードを上げて最後のスプリント勝負。世界選手権は10000mで優勝を狙う」と自信満々だった。

DL緒戦のドーハで不本意の5位に終わった男子棒高跳びのレノード・ラヴィニエ(フランス)は、今季世界最高記録5.82mを一発でクリアーして優勝を決めてホッ!「今季世界最高記録で勝って大変に嬉しい。初のDLポイントを獲得、年間優勝できれば最高だ」と自信を取り戻した様子。

男子三段跳びのフィリップス・イドウ(イングランド)が3回目に17.59mの今季世界最高記録を跳んで優勝。なお、テディ・タムゴ(フランス)は欠場、直接対決は見られなかった。

女子400mでトップ選手が集結したが、アリソン・フェリックス(アメリカ)がただ一人サブ50を突破した49秒81の今季世界最高記録で圧勝。「シーズン初めとしては満足している記録だ」と。ライヴァルで故障上がりのサンヤ・リチャード―ロス(アメリカ)は50秒98と不調だった。

女子100mHは出場8選手全員がサブ13秒。北京五輪優勝者のドーン・ハーパー(アメリカ)が12秒73で優勝。ドーハで勝ったケリー・ウェルズ(アメリカ)が12秒73で2位。ハーパーは「今シーズン最初のレース。レース経験が大切なので無理をしなかった。良いレース結果だ」と喜んでいた。

 
(2011年月刊陸上競技7月号掲載)
(望月次朗)

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