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第109回 ボストン・マラソン
キャサリン・デレベ史上最多4回目を圧勝、ハイル・ネグシエ初優勝

第109回目を迎えたボストン・マラソンは、派手な選手集めで注目度ナンバーワンのロンドンとは対照的だ。老舗の風格でレースを作る。ロシア女帝に掛けて「偉大なキャサリン」とニックネームをつけたキャサリン・デレバ(ケニア、32歳)の史上最多優勝が焦点だった。予想に違わず、後半デレバが先行するエフフェネシュ・アレム(エチオピア、29歳)を掴まえ、1分以上の差をつけて2連勝、史上最多の4回に優勝記録を伸ばした。男子の優勝の行方は、予想さえ難しい混戦状態。心臓破りの丘を登り切って、ハイル・ネグシエ(エチオピア、25歳)がケニア勢を引き離して、1989年アベベ・メコネン以来のエチオピア選手の優勝を飾った。参加数は2万人。温度18度、無風。

デレバ、余裕の2連勝、アレム逃げ切れず

女子トップマラソン選手の絶対数が需要と比較して圧倒的に少ないレース主催者にとって、実力ランナーは希少価値そのもの。ロンドンにトップ選手を持っていかれ、今年のボストンは、最大の目玉選手として女子史上最多優勝を掛けたデレバに興味を託した。彼女を脅かす選手は、昨年ゴールまで死闘を続けたシドニー五輪男子マラソン優勝者ゲザヘンゲ・アベラの妻、アレムぐらいのもの。ほかは30歳を悠に越したロシアのベテラン選手だ。デレバは珍しく母国ケニアで調整、2週間前に夫アンソニー、娘ジェーン同伴でやってきた。

レース当日は、かなりの暑さが予想された。国歌斉唱、2機の戦闘機が低空で飛び去ると、車椅子、女子選手、さらに30分後に男子選手がスタートする。最初の5kmで早くもリュボフ・モルグノワ(ロシア、34歳)が下り坂を飛ばして先頭に立つ。アレムとヌタ・オラル(ルーマニア、34歳)らが少し遅れて続く。デレバは相変わらずスロースタート。15km地点通過、アレム、オラルらが先頭に立つ。デレバはレース後「作戦と言うよりも、気温が18度ぐらいに上がると聞いていたし、走り出してから足も身体も重く感じられたので、自分身体に聞きながらのペース配分だった。前半で飛ばすのは、リスクが大きいと思った。スローペースで入ったのが正解だった」と言う。自滅ではないのか?と、問われて、アレムは「あれは単なる普通のペースです。」と反論した。レデベはハーフをトップの2人より1分20秒遅れ、ゲタ・ワミ(エチオピア、30歳)と併走して通過。20kmを過ぎると、デレバがわずかにペースアップ。アレムは20〜25km間で次第にペースダウン。スピードアップでカムバックを期待されたワミだが、次第にデレバに付いて行けず遅れ出す。25km地点を過ぎると、先行するアレムとオラルのギャップが広がり、デレバはグングン飛ばして50秒差に短縮。30km手前でデレバはオラルを抜き2位に浮上。デレバの視界に先行するアレムの姿が入ってきた。デレバの25〜30kmのスプリットは、初めてサブ17を割る16分57秒を記録。その差は28秒差に短縮。”心臓破りの丘”を上がった地点で、ついにデレバがアレムを捕らえ2人は横に並んで併走。昨年の、両者一騎打ちのレースが再現した。

しかし、デレバのスピードは衰えることもなく、35km手前から徐々にギャップが開く。30kmからのスプリットは、デレバが17分05秒、アレムは17分33秒。すでに、この時点で勝敗は決定した。この日最速のスプリット16分46秒、驚異的な後半のスピードアップでアレムを突き放してゴールイン。レデベは完勝の喜びをこう語った。「今日の優勝は、わたしにとってかけがえのないもの。歴史を作り大変な名誉です。ハーフを過ぎてからの後半、身体にリズムが出て、スピードに乗れた。アレムとどのくらい離れているかわからなかったが、神様がわたしの努力を見捨てず、勝利を授けてくれたのです。」アベレはロンドンからボストン入りして、妻の応援に駆けつけたが2年続けて2位。「失望はしていません。勝つものがいれば負けるものがいます」と、淡々としていた。3位のブルナ・ジェノベーセ(イタリア、28歳)は「落ちてくる選手を追い越していたら、いつのまにか3位だった。」とか。

ネグシエ、ケニア選手に競り勝つ

昨年の福岡マラソンで7位、ベスト記録2時間8分16秒のハイル・ネグシエ(エチオピア、25歳)が、ケニア勢を相手に孤独な戦いの末、2時間11分45秒の平凡な記録で優勝した。この優勝は1998年アベベ・メコネン以来のエチオピア選手だ。ネグシエは「この優勝はエチオピア、ぼくにとって大きな誇りです。スローペースが幸いした。」と、大喜びだった。

正午スタートの気温は18度に上がったが、風も殆どなかく、スタートからなぜか有力選手が消極的な展開だった。最初の5km通過タイムは、下り坂を考慮すると相当に遅い15分54秒。ハリッド・エルブーミリ(モロッコ、28歳)、ステファン・キオゴロ(ケニア、30歳)の2人がスローペースに堪らずに積極的に飛び出した。しかし、第2集団の大きなグループは動かない。ハーフを過ぎるまで15分23秒、15分34秒、15分53秒のイーブンペースで刻んだが、20kmを過ぎて第2グループ集団に捕まる。ハーフを66分13秒のスローペース通過した。30km地点通過トップ集団の構成は、ケニア勢が5人、エチオピア選手が1人。長身のアメリカ人ら数人が少し遅れて後続する。昨年優勝したティモシ・チェリガットが遅れだした。サバイバルレースに残った5人が“心臓破りの丘”に挑戦。ここでネグシエが仕掛けるが効果なし。35km手前でチェロノが遅れだす。急激な下りをネグシエ、チェルイヨット、オンサレの3人は、横一線に並ぶ。38km付近でネグシエが2回目のスパート。長身のベンソン・チェロノが必死で追うが、ネグシエはそのままゴールへ一直線に独走した。ディエタ・ホーガンの選手、ルト、チェリガットらはロンドン、ボストンの走りを注目されたが両者とも連勝ならず。

(月間陸上競技誌05年6月号掲載)

(望月次朗)

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