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デイロン・ロブレス、失敗から習った五輪の優勝

ロブレスはレースをこう分析した。「バレンシア室内世界選手権の失敗で多くのことを習得した。国内外からかなりのプレッシャーがかかったが、記録より勝つことを優先した。記録を目指して走ったのではないから、タイムも悪くはない。なにごとも起こらなければ勝つ自信があった。決勝で両脇のアメリカ選手をマークするより、一瞬の自分のミスが最も怖かった。冷静かつ慎重に走った。世界記録への挑戦と五輪優勝を賭けたレースは、心理的に大きく違ってくる。ハードラーは、この種目の難しさ、激しさ、怖さをだれよりも知っている。一瞬の油断でレースを失う。子供のころからの夢がかなって優勝、ホッとしたさ。今後、アレン・ジョンソン、コリン・ジャクソンらのように、35、6歳ぐらいまで好きなこの種目を続けたい。」

ディロン・ロブレス(キューバ、21歳)は、昨年からグングン頭角を現し、室内7勝2敗、今季、12秒台を連発して絶好調。6月12日、オストラヴァGPで待望の12秒87の世界新記録を樹立。一挙に、2連覇を狙う劉翔の前に大きく立ちはだかった。五輪前の屋外レース7勝1敗の好成績を引っさげて北京に乗り込んだ。一方、13億人の期待がかかった劉翔は、故障で不調説が流れたが極秘扱いで動向は一向につかめなかった。ここで詳しく書くまでもなく、心配された劉翔の故障は現実のものとなり、レース当日足の痛みと葛藤する劉翔の痛々しい姿があった。劉翔は一度も走ることなく競技場を去った。こうして、世界中の陸上競技ファン待望の好ライバル同士の対決は行われなかった。

ロブレスは、「劉翔は中国スポーツ界の最大のスーパースターだ。ぼくの好敵手でもあり良き友達。その劉翔が故障で走れなかった姿は、見るに忍びなく痛々しかった。かれがこの4年間をどれだけ待ったことか、その心境は察するにあまる。もし、かれがベストの状態で決勝に進出したなら、一体どんなレースができただろうか。北京五輪が違ったものになっていただろう。かれは偉大な競技者だ。かれの存在感を大きく感じないわけには行かない。かれの出場するレースは緊張感が違う。そして、必ずいい記録が出るのだ。アスリートで他のアスリートの故障を望むものはだれもいない。今、言えることは、早く全快してトラックに復帰して欲しい。劉翔は必ずカムバックする。その日を楽しみに待っている」と結んだ。

 
(08年月刊陸上競技10月号掲載)
(望月次朗)

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